犯人は意外なあの人…シンプルで面白い推理小説ヤーンエクストレム「誕生パーティの17人」

こんにちは。やっぱり推理小説は最高ですね。漫然と読んでいては犯人は当てられないこのスリルが推理小説の醍醐味でしょう。さて、そんな推理小説ですが犯人を当てられたくないからとばかりにひねったり、ドラマがいまいちだったりとシンプルに楽しめるものは意外と少ないものです。
そこで今回ご紹介するのがヤーンエクストレムの「誕生パーティーの17人」です。今から34年前に書かれたこの推理小説はメカニカルな面でも推理しやすく推理ドラマとしても納得の平均点の高い良作となっています。そこで今回はこの誕生パーティの17人を①見取り図とあらすじとストーリー構成②複雑な人間関係③トリック、展開の3項目からご紹介していきたいと思います。くれぐれもネタバレを含みますのでご了承ください。

 

①当事者たちの時系列を追って進行する臨場感ある構成

事件はレタンデルおばさんの財産相続を巡って17人がおばさんの屋敷に集うパーティシーンから始まります。その翌日にカールとヴィクトルが密室で一酸化炭素で死んでしまいます。父親や息子を殺害した後に自殺したように見える単純な事件でしたが捜査の結果殺人事件の疑いが持ち上がり不可能犯罪の様相を呈してきます。
冒頭ではレタンデル屋敷がどこに立っているのかそしてその付近がどのような地形になっているのかは一切明かされません。家系図だけが読者に公開されることで人間関係が重要視された推理ドラマに引き込まれる形で物語はスタートします。

17人と犯人候補がとても多いこの作品は一章一章が容疑者たちの一人称で綴られます。
その始まりである第一章はウラ。17人の容疑者それぞれが事件の自系列を追って述べられる証言の中にレタンデル一族の歴史や人間関係、そして犯人、トリックのすべてが記されています

読み解けば必ず犯人を当てられる極めてシンプルな構成になっています。

 ②歴史深い一族の複雑な人間関係と謎

この一族は誰が犯人でもおかしくありません。 一章ごとに全員が抱えている謎と縁故とトラブルといったレタンデル一族の歴史とあいまって事件当時の状況と証言が個人的な思惑が思い込みや間違いも含めて一人称で語られることで事件を一見複雑なものにしています。

殺されたカールはステラと共に謎の手紙と写真を残しました
この謎の手紙と写真が何を意味するのか。
蛇のタトゥーの美女ギタンとビクトルとエベの屋根裏部屋での写真の謎
かつてカールと付き合っていた女優のステラの遂げた謎の自殺。
コルンとエヴァの謎の事故死。
女遊びが激しいエレンとマーリン。
エレンはお金に困っていました。
唯一全幅の信頼をおばさんから置かれているのはマオリッツただひとり。
自殺した女優のステラをレタンデルおばさんは苦手で一族として迎え入れることを拒否していました。
殺されたカールはステラと付き合っていたので、事件と何らかの関わりがあってもおかしくありません。
フレドリクはカッとなって事件日にカールたちを殺すという宣言をし、真っ先に酔っ払った金の亡者でした。

③シンプルな時系列と明快な証言

さて、全員が動機と謎を持っているにせよ各々の証言をまとめていけば、時系列的に事件の全貌が明るみになります。

レタンデルおばさんがパーティーから引いた後に深夜0時までダンスが行われました。
ヤーンが深夜12時30分頃に正面のどこかから車のエンジンのかかる音を聞いてから、銃声が聞こえた時刻はアルマやエバたちの証言をもとにすれば深夜1時から2時の間だったと推理だてることができます。

時系列から得られた証言を元にすればいたってシンプルな状況特定が可能となり走り去った車の操縦者の特定こそが犯人につながることがわかります。

③後味の良い謎解きで読後感は100点。でも密室トリックは…

以上のことから17人の誕生パーティーで犯人を推理するために大切なのは密室トリックではなく銃声の聞こえた時間と深夜の車であり、屋敷へのアクセスであることがわかります。

ヴィクトルとベラとヴェローニカは一台の車を相乗りしてパーティにやってきました。
スヴェンソン一家は公共交通機関を乗り継いできたために容疑者候補から外れます。
マイカーでやってきたマーリンと朝方にマイカーで到着したマオリッツ。

上記の犯人候補からさらに真犯人にたどり着くためには密室の謎さえ解ければ犯人はもうこの手中…と、考えたいところなのですが、密室のトリックだけは意外過ぎて疑問の仕上がりになっています。

内側からキーがかかっていた完全な密室のダンパーが開いていたのにも関わらずなぜ一酸化炭素中毒に見せかけて殺害できたのか、というトリックの答えがパーティで使われた風船でダンパーを塞いだというのはかなり強引でした。これは読者が当てられなくても無理はありません。

以上のことからこの推理ノベルで最も重用なのは犯人と車の関係です
鮮やかな不可能犯罪の行われた密室トリックではなく、事件当時の深夜の時間アリバイトリックと車の操縦者の特定が重要。これが推理できれば及第点。

更に複雑な人間ドラマから犯人を推理し読み解けたならそれも及第点でしょう。

参考図書

ヤーンエクストレム「17人の誕生パーティ」